免震点検エピソード

クリアランス不足の駐輪場の屋根が地震で押し倒された

後付けされた駐輪場の屋根がクリアランス不足

熊本県にある免震マンションでのエピソードです。1年目の免震点検で、マンションの横に駐輪場の屋根が増設されていました。

マンションの横には空きスペースがありました。そして、予想よりも多くの自転車がマンションに持ち込まれ、もともとあった駐輪場ではスペースが足りなくなりました。そのため、その空きスペースに住民が自転車を置き出したようです。

ところが、雨が降るうちに、自転車が濡れて困ってしまった人が多かったようです。その後、マンション住人の声が反映され、後付けで屋根が設置されました。

ところが、その屋根の設置には、免震マンションとして問題がありました。それはクリアランス不足です。

クリアランス不足とは

免震建物は、地面と建物が免震装置によって隔てられているため、地震が発生したら地面は大きく揺れても、建物はあまり揺れないため、地面と建物が近づきます。このときに、地面と建物にある程度の隙間がないと、地面と建物がぶつかってしまって壊れてしまいます。

地面と建物には壁があり、その隙間を考えるだけではありません。建物にはたくさんの配管や配線があり、それらにもある程度の隙間が必要です。もし、配管と壁の隙間が不足していれば、地震が発生したときに、配管と壁がぶつかってしまい、配管や壁が壊れてしまいます。その配管がガス管であれば、二次災害も発生しかねません。

このような隙間のことを、「クリアランス」と呼んでいます。クリアランス不足とは、クリアランスが管理値よりも小さいことです。

そして熊本地震が発生

さて、熊本県の免震マンションの話に戻します。この免震マンションの外に駐輪場が設置されましたが、この駐輪場の屋根の柱と建物の隙間がクリアランス不足でした。そこに発生したのが熊本地震(2016年4月14日)です。

熊本地震はまだ記憶に新しいですが、熊本地方を襲った強い地震で、震度5弱から震度7の地震がなんと20回以上も発生しました。

この免震マンションの応急点検は、熊本地震発生から約2か月後に行いました。ですので、地震発生時の様子はわかりませんが、屋根の倒れ方からどのようなことが起こったのかが予想できます。

おそらく、いきなり強い地震によって地面が揺れます。すると、相対的に建物が移動してクリアランス不足だった柱に当たります。もしかしたら、1度の大きな揺れでは柱は倒れていなかったかもしれません。

その後、何度も強い地震が発生し、柱には擦り傷が付きながら、ついに倒れてしまいました。そのときに、屋根の下にあった自転車も倒れていて、その上から屋根が倒れかかってきました。屋根の重みでいくつかの自転車は押しつぶされていました。

この事故では、押しつぶされたのがたまたま自転車だけでしたが、場合によっては人が巻き込まれて怪我をしていた可能性もあります。

塩ビ配管も壊れていた

この免震マンションでは、もう一か所にクリアランス不足がありました。それは建物の雨水を排水するための塩ビ配管です。

塩ビ配管は柔らかい配管ですので、もし壊れてしまったら交換が容易にできます。そのため、損傷許容として「地震で壊れても問題ない」とみなされることがあります。

免震点検会社である当社の見解としては、塩ビ配管もクリアランスが確保されているべきだと考えます。しかし、そこは建物管理会社様や建物のオーナー様の考えに委ねられます。

免震建物のフェンスや外灯の追加工事の注意点

免震建物において、免震層内や建物外周部に追加工事をするときには、免震建物での工事経験がある業者に依頼すべきです。クリアランス不足や余長不足が発生する多くの場合で、免震建物の事情を知らない業者が追加工事をしているという事実があるからです。

免震建物の外周部にフェンスや外灯を立てるときは、建物と追加設置されたものだけのクリアランスを確認するだけでなく、建物から出っ張っている配管や構造物などがあれば、それとのクリアランスも確認するようにしてください。

もし、免震建物の免震層内や外周部で追加工事をされた場合は、安全のためにも免震点検(通常点検)をご利用ください。

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