免震建物に設置された免震ゴム(積層ゴム)の点検は、通常点検や応急点検で行う「目視点検」と、竣工検査や定期点検で行う「計測点検」があります。
建物に設置された免震ゴムの点検のタイミングは、次の6種類があります。
中間検査は、免震建物を建てている途中での検査です。免震ゴムを設置した直後や、建物の上部に構造物が積み重なり建物の重量が増していく途中で計測点検を行います。寸法の変化を計測することで、免震ゴムが変形したりねじれたりしていないかを調べます。
計測点検の詳細な内容は後述します。
竣工前に、免震ゴムのボルトを管理値のトルクで締めつけた後に計測点検を行います。ここで計測した寸法がゼロ基準となり、今後の定期点検でそこからの変位量を調べます。
竣工検査にて免震ゴムに傷が付いているなどの異常が見つかることが稀にあります。その場合、免震ゴムの補修には、人員手配などで日数を要するため、竣工日に納品が間に合わない恐れもあります。竣工検査の1カ月以上前に、目視点検を行っておくことをお勧めしております。
年に1回行われる目視点検です。目視点検の詳細も後述しますが、免震ゴムの損傷や鋼材部の錆、ボルトの緩みなどを点検します。
竣工後5年目や、竣工から10年毎に行われる計測点検です。前回の定期点検の結果と比較し、免震ゴムの劣化、建物の変形などによる免震ゴムの寸法の変化を確認します。
大きな地震などで免震ゴムが大きく動作した後に行う目視主体の点検です。概ね震度5弱以上の大きな地震の後や、台風や突風で概ね風速30m/sを超える強風が吹いて建物が大きく揺れた場合に、応急点検をすることをお勧めしております。
免震ゴムの交換を行うときに行う計測点検です。交換前と交換後に点検し、交換前後で寸法が変化していないかをチェックします。
免震ゴムの目視点検では、次のような外観検査をします。
免震ゴムを目視して傷や汚れ、付着物がないかを確認します。積層ゴムの表面には、被覆ゴムが巻かれています。この部分にカッターナイフで切れたような傷があることもあります。
免震ゴムに一定の寸法以上の大きさの傷があれば、指摘事項になります。傷の深さは、ブリヂストン製の免震ゴムなら被覆ゴムの厚さが薄いので深さ8mm以上、その他のメーカーの免震ゴムは深さ10mm以上の傷が指摘事項になります。また、傷の長さは、ブリヂストン製もその他のメーカーも10mm以上であれば指摘事項になります。
このように、免震ゴムの表面に管理値を超えた傷があれば、その傷の補修が必要になります。深い傷があれば、地震があったときに傷が広がってしまう恐れがあるためです。
補修はメーカーに行ってもらうことが一般的ですが、専用の接着剤で傷を塞ぐ場合や、専用の補修材でゴムのえぐれた部分を埋める場合があります。
免震ゴムの汚れや付着物で指摘事項になることは稀です。よくある汚れとしては、土誇りが固まったものが付着します。蜘蛛の巣などの軽微な付着物があれば手で払い、傷が隠れていないかをチェックします。
免震ゴムは大きなボルトで固定されています。ボルトには「マーキング」と言って、油性マーカーなどで線が描かれています。ボルトの締め付け直後にマーキングを行い、ボルトが回転すればマーキングのズレで、ボルトの緩みを発見することが可能です。
念のため、すべてのボルトを手の力で回転するかどうか確認し、ボルトの緩みがあれば指摘事項にあげます。
手のひらサイズほどの大きなボルトなのですが、緩むことが本当によくあります。毎年点検をしている免震建物でも5棟に1棟はあります。
免震ゴム1台でもボルトの緩みがあれば、他のボルトも緩んでいる可能性があります。ボルトの緩みは、すぐさま免震装置の性能に影響があるわけではございませんが、なるべくお早目に全台数のボルトの増し締めを実施してください。
当社でもボルトの増し締めを承っておりますので、ご要望のときはご相談ください。
現場によっては、マーキングをし忘れている免震ゴムがときどきあります。そういった場合のボルトは、竣工時に増し締めをし忘れている可能性があります。マーキングが無い場合は、これも指摘事項になります。念のため全台数のボルトを増し締めした方が良いです。
フランジや鋼材部の塗装の発錆、ひび、剥がれは、ほとんどの現場で散見されます。鋼材部が一切発錆していない建物は、免震ゴムの機数が少なく、雨の影響を受けない、そして竣工から数年しか経過していないものにほぼ限られます。
発錆と言っても鋼材部全体が錆びることはほとんどありません。小指の先ほどの小ささの錆がポツポツと発生していることが多いです。そのような発錆であっても、指摘事項でご報告いたしますので、補修(タッチアップ)をするのか経過観察をするのかをご判断ください。
補修を行う場合は、後日に補修のお見積りをお出しします。軽微な錆の補修であれば、次回の免震点検の日に合わせてご依頼される物件もあります。
免震層内には、クリアランスの隙間から、さまざまな種類の可燃物が侵入することがよくあります。その代表例として、コンビニのレジ袋やおにぎりの袋、タバコの箱や吸い殻、落ち葉、鳥の糞などです。それらの可燃物が免震ゴムのところに堆積すると、指摘事項になります。
可燃物の堆積も傷や錆と同様に、程度があります。つまり、鳥の糞が1つ、落ち葉が1枚あるからと言って可燃物の指摘に掲載するかどうか判断に迷います。そこで当社では、引火したら燃え広がるようなぐらいに可燃物が堆積していたら、指摘事項としてご報告するようにしています。
可燃物の堆積がひどい場合は、チリトリとホウキで掃除してください。免震層内全体の落ち葉の清掃であれば、ブロワ・バキュームなどの装置があると便利です。
免震ゴムの計測点検では、目視点検の内容に加え、次のようなことをチェックします。
免震ゴムの被覆に角度計を当てて、被覆の角度を2か所計測します。計測箇所は、基本的に方位の北側と東側で、前回に計測をした箇所と同じところに角度計を当て、X軸とY軸の水平を計測します。
免震ゴムは、ひし形に変形することがあります。すると、角度計での計測値がプラスやマイナスに傾きます。この値と、前回に計測した値と比較をすることで、免震ゴムの状態変化を確認することができます。
ブリヂストン製の免震ゴムであれば、2か所の角度を計測し、1°以上の値が計測された場合は、念のため逆側も計測し、計測値の信ぴょう性を確認します。
ごく稀ですが異例として、コンクリートの収縮などの影響で免震ゴムの一部がわずかにねじれていることがあります。その場合は、角度計の値が2か所ともプラスあるいはマイナスの値になることがあります。
免震ゴムの東西南北の4か所の高さを、インサイドマイクロメータで計測します。この高さは年々変化する可能性があるため、毎回の計測点検での計測値を比較し、免震ゴムの収縮や膨張の変位を確認します。
以前に計測点検を行っている免震ゴムには、以前に計測した箇所に×印などのマーキングあるので、その箇所で高さを計測します。
初めて計測するときは、被覆ゴムから50mmの位置に油性マーカーで×印などのマーキングを記入し、その場所の高さを計測します。被覆ゴムから50mmの位置で計測する理由は、免震ゴムがひし形になったとしても、インサイドマイクロメータがゴムの側面に当たらないようにするためです。
なお、免震ゴムが50mmを超えるような変形があった場合には、インサイドマイクロメータが免震ゴムに接触してしまい、うまく計測できなくなります。しかし、50mmを超えるような変形は、免震ゴムにとっては異常事態だと言えます。
4か所を計測したときに、それらの最大値と最小値の差が2mm以上ある場合は、計測ミスの可能性も考えられますので、もう一度4か所を計測します。それでも2mm以上のズレがある場合は、指摘事項に記載されます。
このような免震ゴムの変形は、免震ゴムの劣化が原因の場合は少なく、コンクリート収縮が原因であることが多いです。
免震ゴムの被覆ゴム表面の温度を、放射温度計で計測します。温度計測の理由は、免震ゴムの温度の異常を計測しているわけでなく、計測された鉛直高さの値を温度補正するためです。
積層ゴムは、温度が高くなると膨張し、温度が低くなると収縮します。そのため、以前の計測点検での値と比較するために、20℃での数値に補正してご報告いたします。
温度補正のための計算式は、免震ゴムの各メーカーがカタログなどにて公表しています。
以上、免震ゴムの点検について、一部ノウハウともいえることを含めて詳細に述べました。こちらのページに、お問い合わせから免震点検実施やご報告までの流れを記載しています。免震ゴムの点検なら、マテリアルリサーチにお任せください。
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