2011年3月に発生した東日本大震災の直後に、日本免震構造協会では、地震後に応答建築物調査委員会を設け、免震建物の調査を行いました。すると、免震建物本体は地震による被害がほとんどありませんでしたが、30%の免震建物で免震エキスパンションジョイントが損傷していました。
この調査報告は、当時ニュース記事にもなり、「大地震では免震建物でも壊れてしまう」との誤解を招いたこともありました。
免震エキスパンションジョイントは、免震側の建物と非免震側の地面との接続部に設置されるプレートです。そこが損傷してしまうと、通行人のケガなどの二次災害につながる恐れがあります。
また同委員会では、免震構造設計部会のもとに損傷原因の把握および要因分析を行いました。すると、免震エキスパンションジョイントの機能上の問題をはじめ、設置状況の問題、維持管理の問題など様々な損傷要因があることが明らかになりました。
これを踏まえ、日本免震構造協会では、免震エキスパンションジョイントのガイドラインとして、免震エキスパンションジョイントの種類や目標性能、設計・製作・施工・維持管理上の留意点をまとめられ、2013年4月に発行されました。
これ以降、免震エキスパンションジョイントの設計・製造、検査、点検などに関連する業者は、このガイドラインに従って業務を行うようになりました。
免震エキスパンションジョイントのガイドラインは、現在、7章立てになっています。
第1章では、免震エキスパンションジョイントの考え方や、設計・製作・施工のフロー、用語の定義、機構の分類が定義されています。
第2章では、免震エキスパンションジョイントの目標性能についてまとめられています。
第3章以降は、免震エキスパンションジョイントの設計や製造、施工、検査、維持管理についてまとめられています。
当社のような免震点検業者であれば、第6章「検査上の留意点」の竣工時検査の項目と第7章「維持管理の留意点」の維持管理と点検の項目が、主に把握しておくべき内容となります。
ガイドラインでは、免震エキスパンションジョイントが3種類定義されました。
性能指標 | 中小地震変位50mm程度 | 大地震設計可動量 | 確認方法 | 使用箇所(参考) |
---|---|---|---|---|
A種 | 機能保全 | 機能保全 | 設計可動量まで損傷しないことを振動台試験で確認する(振動台の可動量が小さい場合にはオフセットして試験することも可とする) | 避難経路人や車の通行の多い箇所 |
B種 | 機能保全 | 損傷状態1 | 設計可動量において軽微な損傷であることを振動台試験で確認するまたは、設計可動量まで損傷しないことを加振台試験で確認する | 人の通行する箇所 |
C種 | 損傷状態1 | 損傷状態2 | 図面により、可動することを確認するのみ | ほとんど人の通行がない箇所 |
これによると、大地震が発生したときに、機能が保たれるのがA種となります。しかし、あくまでも設計稼働量なので、それ以上に動いてしまう大きな地震があったら損傷する可能性があります。
免震エキスパンションジョイントの種類では、中小地震や大地震・設計可動量での損傷状態が示されていました。このときの損傷状態は4種類あり、一般社団法人日本免震構造協会発行「免震エキスパンションジョイントガイドライン」第2章「目標性能」には、次のように定義されています。
変形、傾き、隙間などの機能上の支障がない。地震後にも機能を確保しており無補修で継続使用可能。仕上げのすりキズやシール切れなどの軽微な損傷は可。
過大な変形、傾き、隙間がない。地震後に調整・補修で継続使用可。床段差や多少の壁の突出があるが通行に支障はない。
やや大きな損傷を生じるが、機能を喪失するような損傷はない。大規模な補修または部品の交換で再使用可。床段差や壁の突出があるが、脱落はなく通行は可能。
脱落や機能を喪失する損傷が生じる。地震後の継続使用に支障をきたす。
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