千葉県にある公共施設の免震建物でのエピソードです。千葉県では、特定建築物に該当する建物は、その設備等を2年毎に点検をして、定期報告することになっています。その公共建物では、2年に1回の点検を一級建築士の人に点検してもらっていました。
その建物が竣工してから5年が経過したため、定期点検(計測点検)を行うことになり、当社にご依頼をいただきました。
免震点検日の当日、免震層内に入った瞬間、マスクをしていてもかび臭さを感じ、とてもいやな予感がしました。次の瞬間、その予感はみごとに的中しました。
1つのすべり支承に掛けられていた防塵カバーが激しくかびていて、すべり支承が常に湿気た状態だったのです。
すべり支承は、テフロン加工された板の上に、免震ゴムなどを介して柱が立っている免震装置です。テフロン加工された面に傷が付いたり、砂塵が堆積したりすると、地震発生時にすべり支承が本来の性能を発揮できない恐れがあります。
テフロンの傷や、すべり板の上の砂塵堆積を防ぐために、通常は防塵カバーが設置されています。
防塵カバーには、発泡スチロール製のものや、厚手の合成繊維のカバー(体育マットのようなもの)が掛けられていたり、すべり支承を囲うようにカバーが設置されていたりします。
すべり支承を点検するときは、可能な限り、防塵カバーを取り除いたり、めくったりします。
この免震建物では、合成繊維のカバーが用いられていました。
この免震建物では、免震層内に雨水を排水するための、塩ビ製の縦配管がありました。この縦配管は、雨水が免震層内の溝に流れ出て、雨水が排水される仕組みになっていました。
ところが、なぜか1本だけ、天井部分で雨水配管が折れ曲がっていて、雨が降ると、雨水がすべり支承に直接かかるようになっていました。
免震層内はいつも湿度が高いこともあり、体育マットのような防塵カバーは、いつも濡れている状態でした。
ここは、免震点検技術者としての根性を発揮するときです。激しくかびた防塵カバーをめくって、なんとか点検を行いました。
防塵カバーがいつも濡れている状態ということは、すべり支承もいつも濡れている状態です。
すべり支承は、全体的に鋼材でできています。表面がテフロン加工されていたり、塗装されていたりしても、いつも濡れている状態だと、鋼材部の錆が早く起こり、広がってしまう恐れがあります。
すべり支承が錆びてしまったら、錆をケレンして塗装をするという補修が必要です。しかし、その錆が、取り返しがつかない状態にまでになったら、すべり支承を交換する必要が出てくることでしょう。そうすると、多大な費用がかかる恐れがあります。
免震装置が適切に機能することを期待できないばかりか、工事費用がかさんでしまうことでしょう。
前回までの免震点検は、「一級建築士の人に点検をしてもらった」ということでした。確かに、免震点検は一級建築士が行っても良いことになっています。しかし、前回までの免震点検は、当社の点検基準と比較すると、点検箇所の見落としなどのずさんな箇所がありました。
塩ビ配管は折れやすいので、もし折れ曲がってしまったとしても、破損許容として見落とされることがあります。免震層の中は暗いので、免震点検技術者の資格を持った人でも、ミスを気づきにくい場合があることは事実です
しかし、天井の折れ曲がった雨水配管が免震装置に向いていることや、激しくかびた防塵カバーを「大丈夫だ」と判断していたのであれば、酷い話です。
すべり支承が常に濡れた状態から回復させるためにも、雨水配管を早急に修理することが必要です。また、同じような事故が発生することを防ぐためには、雨水配管が折れ曲がってしまった真因を追求し、再発防止に努めるべきです。
今回の事故は、おそらく、過去に免震層内で作業をしていた人が雨水配管にぶつかって折れ曲がり、それを放置していたのでしょう。
もし、そうだとすると、雨水配管に蛍光テープを巻いたり、明るい色を塗ったりするなどして、雨水配管の存在が判るようにし、人がぶつかることを防ぐべきです。
また、今回使用されていた防塵カバーは布製です。雨水配管の修繕に加え、布製のカバーと取り外し、発泡スチロール製の防塵カバーと交換することも、一つの対策です。
免震装置に直接水がかかってしまう場合には、いくつかの対処法があります。
一つ目は、どうしても雨水が当たってしまう免震装置には、免震装置を覆うようにステンレス製の傘をかぶせる方法です。もっとも費用がかかる方法ですが、雨水を確実に防ぐことができ、長持ちします。
免震層の隙間から雨水が入り込む免震建物であれば、隙間に隣接する免震装置は、ステンレスカバーを設置すべきでしょう。
二つ目には、ゴムの板や塩ビのシートをかぶせる方法です。この方法は、比較的安価ですし、防水だけでなく防塵の効果もあります。この方法は、ゴムの板や塩ビのシートの劣化をチェックする必要があります。
三つ目は、免震装置をカバーで覆ってしまう方法があります。この方法ですと、免震点検が行いにくくなるため、あまりお勧めできません。
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