都内の少し大きな免震マンションでのエピソードです。閑静な住宅街の一角にあるマンションで、毎年定期的に免震点検に入らせていただいていました。
いつものように、免震点検で外周部のエキスパンションジョイントを点検していたときのことです。ふと上を見上げたら、電信柱からマンションに向かって、一直線の引き込み線を発見しました。
去年までは無かったその電線は、一見、明らかに余長不足でした。
詳細に調査したところ、たまたま屋上まで固定されずに伸びていたので、「若干の余長があるだろう」と判断でき、胸をなでおろしました。
地震が発生したときに地面は揺れても、免震建物はあまり揺れません。そのため、地面側と建物側がぶつからないように、規定値の隙間が空けてあります。この余長のことを免震クリアランスと呼びます。
余長は、建物だけに限らず、地面側から建物側へ伸びている電線(電源引き込み線や電気配線)や配管にも必要です。
もし、電線に余長がなければ、大きな地震が発生すると、電線が引っ張られて断線してしまうことがあります。電線が断線すると、断線部分に発生する火花で火災が発生したり、震災後の電源復旧が遅れてしまったりする可能性があります。
免震点検で電線の余長不足を発見したら、指摘事項として改善を促しています。
建物近辺や免震層内にて、次のような追加工事をするときは、工事の見積もりの段階で、「免震建物なので規定値以上の余長が必要です」ということを伝える必要があります。できれば、免震建物での工事を経験している業者が理想的です。
別の免震建物での事例です。その建物では、免震層内にある排水ポンプの配線工事が行われました。工事図面上では余長を考慮してあり、実際の配線はとぐろを巻くぐらいの長さでした。しかし、写真のように、結束バンド(インシュロック)で配線の束を結束し、アームに固定されていました。
この配線工事が行われた場所は、免震層内の水を排水するための釜場でもあったため、配線工事担当者が、「配線が水に濡れてはいけない」と考えて、近くのアームにインシュロックで固定したものと思われます。
この状態で大きな地震が発生すると、結束バンドが切れるか配線が断線するかのどちらかです。そのため、この状態も、免震点検での指摘事項になります。
なぜなら、免震クリアランスが足りなければ、大きな地震で建物にダメージを負ってしまうためです。
次に電気配線の余長が重要視されます。電気配線は、「損傷しても建物に大きなダメージがないだろう」と思われやすく、余長不足があったとしても積極的に補修をしないところもあるぐらいです。
大きな地震には、めったに遭遇するものではありませんが、免震建物の維持管理をしっかり行い、いざという時に備えて頂きたいと思います。
当社では、追加工事箇所のスポット的な免震調査/点検サービスを行っています。上でも示した余長不足の指摘が出そうな追加工事を行った場合は、当社までご一報ください。
図面での余長確認や工事後の写真での確認、現地調査などを行い、追加工事箇所の余長が十分かどうかを判断いたします。
また、追加工事箇所の免震点検を、定期的な免震点検の日に併せて行う場合には、点検スタッフに追加工事があった旨を、点検前にお伝えください。
もし、長年免震点検を行っていない建物であれば、追加工事箇所の免震点検と併せて、免震装置の点検を行うことはいかがでしょうか?
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